大判例

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名古屋高等裁判所 昭和30年(う)1176号 判決

控訴趣意第一点は本件犯行当時本件自転車はその所有者岡田稔の事実上の支配を離れていたものであるから占有離脱物と言うべく、窃盗罪を構成しないから事実誤認の違法があると言うにあるが、本件記録及び原審に於て取り調べた証拠によれば、岡田稔は名古屋市北区鈴蘭通り元祿屋に於て飲酒し、昭和三十年二月十七日午前零時頃同所を出て本件自転車を引張つて道路上を約八十米行つた地点に至り、手袋等を忘れて来たことに気付いたので、施錠もせず、自転車を路上に立て置いたまま、同点に行き直ぐ元の場所に戻つて来たところ既に右自転車は存在しなかつたものであり、それは被告人が持ち去つたのであること、右自転車を置いた地点の状況は両側に人家軒を連ね、殆ど各家に門燈のあること、右自転車は割合に新しく、その後部に岡田稔の住所氏名がペンキで明記してあつたことが認められるから、右事実から判断すると右自転車は岡田稔の事実上の支配内にあつたものと認めるを相当とする。尚当時岡田稔が相当酩酊していたことは所論の通りであるが、原審に於て取り調べた証拠によれば、当時岡田は心神喪失の程度に酩酊していたものとは認められないのみならず、窃盗罪の法益たる所持は責任能力の有無とは関係のないものであつて心神喪失者にして刑法上の責任能力を欠く者であつても所持をなし得るものであるから仮令、岡田が心神喪失の程度に酩酊していたとしてもその所持を侵害せば窃盗罪を構成するものと言うべきである。従つて、原審が本件犯行を岡田稔の事実上の支配を侵害したものと認定して、窃盗罪に問擬したのは何等違法ではない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 伊藤淳吉 裁判官 梶村謙吾)

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